AIにビジョンが描けるか?
先週、某社の関係会社の役員研修がありました。事前課題として、各役員に
自社のビジョンと経営目標を設定してきてもらい、それを一人ずつ発表して
もらうという進め方です。
ビジョンというのは、普段の業務の延長線上では出てこないものですので、
皆さん苦労されたようでした。数字の目標はすらすら出てくるのに、
「どういう会社にしたいのか」となると、途端に言葉に詰まる。
これは、どの会社の役員研修でもよく見る光景です。
そんな中で、お一人、生成AIを使って作ってきた方がいらっしゃいました。
「AIと壁打ちしながらまとめました」とのこと。出てきたビジョンは、
文章としてよく整っていて、言葉遣いも悪くありません。
さて、ここで一つ問いが浮かびました。
果たして、生成AIにビジョンは描けるのでしょうか?
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結論から先に申し上げると、「描ける部分」と「描けない部分」が
はっきり分かれる、というのが私の見立てです。順に見ていきましょう。
<1>材料を渡せば、ビジョン案は描ける
まず、生成AIでもビジョン案を作ることはできます。会社の沿革、事業内容、
顧客、強み、直近の中期経営計画、社長メッセージ、業界環境――こうした
情報をインプットとして与えれば、それなりに筋の通った案が、しかも複数
出てきます。白紙から考え始めるより、はるかに速い。たたき台としては
十分に使えます。
逆に、何も渡さずに「わが社のビジョンを考えて」と頼むと、「社会に貢献し、
顧客から選ばれる企業へ」といった、どこの会社でも通用する文言が返って
きます。これは以前のコラムでも触れた通りで、インプットの量と具体性が、
そのままアウトプットの質になります。
<2>「優れたビジョンの条件」に合わせて、表現を磨かせることもできる
もう一歩進んで、私が普段お伝えしている「優れたビジョンの条件」、
すなわち、
・情景がイメージできること
・挑戦的だが、手が届きそうなこと
・自社らしさがあること
といった条件を指示として与えると、AIは表現を工夫してきます。
特に「イメージ可能性」を持たせるのは、人が苦手な部分なので、
そうした部分をサポートしてもらうにはいいかもしれません。
<3>しかし、そこに経営者の想いが込められているか
ただし、です。ビジョンは本来、経営者が設定するものです。
その言葉に、経営者自身の想いが込められているかどうか。
ここが第一の分かれ目になります。
私は発表の後、必ず「なぜ、このビジョンなのですか」とお聞きすることに
しています。AIが出した案をそのまま持ってこられた方は、たいていここで
詰まります。言葉は立派でも、その言葉を選んだ理由がご自身の中にない
からです。
逆に、表現は拙くても、ご自分の経験から絞り出した言葉を持ってこられた
方は、聞けば聞くほど味が出てきます。「昔、あの案件でこういう悔しい
思いをした」「だから、こういう会社にしたい」と。
ビジョンは、文章の出来映えを競うものではありません。「私はこの会社を
こうしたい」という意思の表明です。そこが抜けていると、どれだけ整った
言葉でも、その場限りのものになってしまいます。
<4>そして、社員の共感が得られるか
第二の分かれ目は、社員の共感です。ビジョンは掲げて終わりではなく、
社員が「それなら自分もやってみたい」と思って、はじめて動き出します。
共感が得られるかどうかは、その会社の文脈――これまでの歴史、現場の苦労、
うまく行かなかった経験――を踏まえているかどうかで決まります。
生成AIは、公開情報は読めても、社内の空気までは知りません。
ここは渡さない限り、埋めようがない部分です。
裏を返せば、社員アンケートの自由記述や、現場インタビューのメモを材料と
して渡せば、出てくる案は目に見えて変わります。実際に試してみると、
言葉の温度が違ってきますので、機会があればお試しください。
<まとめ>頼み方を変える
整理すると、「わが社のビジョン案を作ってください」という頼み方では、
<1>と<2>は満たせても、<3>と<4>は満たせません。
ここが、今回の一番のポイントです。
では、どう頼めばよいか。私は、次のような使い方をお勧めしています。
・まず自分の想いを、うまくなくてもよいので先に言葉にして渡す
(「私はこの会社を〇〇にしたい。なぜなら……」)
・会社の情報と、社員の生の声を材料として渡す
・優れたビジョンの条件を示して、表現を磨かせる
・出てきた案は、最後に必ず自分の言葉に書き直す
つまり、AIに「考えさせる」のではなく、「言語化を手伝ってもらう」のです。
ビジョンづくりにおける生成AIの役割は、作者ではなく、編集者あるいは
壁打ち相手である――今のところ、そう考えておくのが健全だと思います。
ちなみに冒頭の役員の方は、発表の後にこうおっしゃいました。
「AIに整えてもらいましたが、結局、最後は自分の言葉に直しました」。
案外、これが答えなのかもしれません。

