マスクはどこに行った?-花粉症のその後-

(このお話は、望ましい将来を語ったものです)

4月、久々に来日したカナダ人の友人、ジョー・シンガーを井口は、自宅の会食に招いた。玄関の扉を開けるなり、”Hi, Yoshi. It’s been a long time since I met you last.”(最後に会ってからずいぶんになるね)とジョーがハグしてくる。”Yeah, maybe five years.”(そうね。5年くらいかな)と井口も昔シカゴで覚えたあちゃら風の挨拶で返す。

ジョーとは、留学時代からの友人である。気さくなカナダ人で、シカゴ大学のビジネススクールを卒業後、なんと日本の伊藤忠に入社し、電力事業等を手掛けていたが、その後スイス系の金属商社に転職し、スイスに渡った。日本びいきな男で、日本人の女性と結婚し、子供を二人授かった。お金ができたのか、その後数年して、カナダに戻っていた。ジョーとは、家族ぐるみでの付き合いで、家内の由紀子もジョーとは親しくしていた。今回ジョーは、出張で、一人で日本に立ち寄ったのだった。

食卓を囲んで、乾杯とあいなり、四方山話となったが、その中で、ジョーの話題に、花粉症の話があった。「昔は、東京にいると春は花粉症のシーズンで、電車の中を見ると、2、3割の人がマスクをしていたけど、今回は、あの東京名物のマスクは、あまり見かけなかったなぁ。今年は大したことないの?」と尋ねてくる。「いやあ、花粉は相変わらず飛んでいるけど、もうあまり症状は出なくなったね。」と井口が返す。へぇ、という表情をしているジョーに対して、「これのおかげだよ。」と冷蔵庫から小さなビンを出してきて見せた。「えっ、何、これヨーグルトじゃないか。冗談だろ。ヨシ。」とからかうなという表情のジョー。「いやいや、本当なんだよ。ヨーグルトの乳酸菌に、腸の中で花粉症のアレルギー反応を抑える効果があることが分かってね。雑誌やテレビで紹介されるようになって、みんな飲んだり食べたりするようになったんだ。」と井口が続ける。「僕も、何年か前にずるずる鼻水が止まらなかったのが、その話を聞いて、半信半疑で飲み始めて、3~4日経ったら、ぴたりととまったんだ。びっくりしたねぇ。あの効果には。その後、花粉症の薬すら飲まなくなってよくなっちゃったんだ。だから、毎年、花粉症のシーズンになる少し前から、このヨーグルトを毎日一本飲むようにしているんだ。」と、ヨーグルトのビンをジョーに向かって差し出した。「よかったらジョーもどうだい?」それを受け取ると、ジョーも「僕も、ヘイフィーバー(ブタクサアレルギー)があるから、試してみるかな。」と言って、キャップを開けて、ごくごく飲んだ。「けっこううまいじゃないか。」とその味に満足していた。

花粉症のアレルギーに効果のある乳酸菌は、いろいろと研究されて、体質により差もあるが、スギ花粉症に効果のあるもの、ヒノキ花粉症に効果のあるもの、ホコリ等に効果のあるものなどいろいろと種類が出て、値段も3個で100円など、量産効果とともに普通のヨーグルトと変わらないくらいの値段となって、大都市部を中心に広く普及することとなった。これにより、花粉症に掛かる医療費は一時2,500億円とも言われていたが、その医療費も大幅に削減され、花粉症薬やマスクの需要も激減することとなっている。

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