「ビジョン・ストーリー」は、ぼんやりとした将来像を具体化できるという意味で、その活用法は大きく分けて7つある。

1つは、経営ビジョンの具体化である。我々は3年後、5年後こんな会社にしたいということを述べる際に、通常「環境・エナジー先進メーカー」に見られるように、概念的に提示することが多い。しかし、それではお客様や従業員にイメージが伝わらない。このため、我々は「ビジョン・ストーリー」を使って、具体的に実現したい場面を描いて、イメージが伝えられるようにする。筆者は、数年前からこの手法を用いて顧客の中期経営計画の立案に活用している。これを行うと立案自体がスムーズに行くのと、中計の実現度合いが高まる。

2つ目は、部門や部、課等の組織の将来像設定に活用する方法である。考え方は経営ビジョンの設定と同じだが、対象範囲が限定されている分、その浸透度と影響力が強い。対象となる組織の長を含め主要なメンバーが集まり、共同で「ビジョン・ストーリー」作りを行う。そうすると、メンバー間で本音ベースの意識の擦り合わせが行え、ベクトルが合う。ある化学系の会社の一部門は、業績不芳で他社への事業売却すら検討されていたが、その部門での「ビジョン・ストーリー」導入により、内部の求心力が格段に向上し、その後短期間に業績が向上し、社長賞を受賞するにいたったほどである。

3つ目は、プロジェクトのゴールイメージ設定に活用する方法である。プロジェクトは期間や予算が限られている。そうした中で、我々は有効な成果を出し、目標達成を図らなければならない。その中で、一番重要なのは、成果としてどのような将来像を実現するかを明確にすることである。単に目標数値を明確にしても、それを達成することがどのような意味があるのかということが明確でなければならない。またそれがメンバーや関係者にも伝わるようにしなければならない。そこに我々は「ビジョン・ストーリー」を活用し、このような将来像を実現したい、と具体的なイメージを提示するのである。

4つ目は、システムの将来イメージ定義に活用する方法である。私は、ITコンサル会社にいて、顧客とシステムの将来イメージ形成に苦労した経験がある。顧客は、我々に「解答」を求めるが、初めから解答があるはずはなく、それは、顧客といっしょに考えて作らなければならないものである。それを行うのに、顧客といっしょに私たちは「ビジョン・ストーリー」作りを行う。顧客とともに将来業務をどのように行えるようになっていたいか、それをシステムでどう実現すればいいかをストーリーでイメージ作りするのである。イメージが共有されると、その後の要件定義やシステム設計がスムーズに進む。後になって、顧客から「いや、そんなシステムを作ってくれと頼んだ覚えはない」というような話は回避できるのである。

5つ目は、ブランドアイデンティティや商品コンセプト設定に活用する方法である。以前紹介した帝人グループの”Human Chemistry, Human Solutions”等がその例である。虎の門病院の話は、「人の役に立つ化学技術・製品」ということが読者に実感を持って伝わったと思う。この手法は、商品コンセプト設定にも活用可能である。次期型モデルのイメージを形成するのに、あなたがターゲット顧客にどのように感じてもらいたいか等をストーリーの形で表現することにより、具体的なイメージが湧いてくる。

6つ目は、新規事業の事業計画策定に活用する方法である。新規事業は、既存事業からすると曖昧模糊としていてイメージを持ちにくい。「いったい、どんなことをやろうとしているのかね?」というような質問を提案者が意思決定者から浴びせられて、提案者が説明に四苦八苦する光景をよく目にする。そうした際に、提案者がこのような将来像を実現したいのです、とビジョン・ストーリーを語ってみせる。そうすると、具体的なイメージが意思決定者に伝わり、GO!サインを出しやすくなる。三菱商事の社内ベンチャーで始めた”Soup Stock Tokyo”は、女性を主人公にしたストーリーで社内提案を通したことで有名である。

最後、7つ目は、個人ビジョン設定に活用する方法である。個人ビジョン設定については、20年以上前から3年後・5年後の自分を描くという考え方で研修が行われてきた。しかし、そのやり方では、研修時だけ盛り上がって、職場に戻ったら忘れてしまうという難点があった。「ビジョン・ストーリー」は、長く記憶に留まるイメージ形成ができるので、将来実現したいイメージを明確に抱くことができる。先日も、ある受講者の感想で、「その日の夜、夢に出てきました!」ということがあった。それは、文字通り本当の夢になっているのである。

このように、「ビジョン・ストーリー」は、ぼんやりした将来像を具体化する必要のあるいろいろな分野に活用することができる。私は、これからも適用分野と事例を増やしていきたいと考えている。

このコラムは、雑誌「ビズテリア経営企画」に連載した「ストーリーテリングで人を動かす」10回シリーズを再掲しています。