ストーリーテリングが効果的なシチュエーションについて考えてみたい。論理と資本主義の国アメリカでも数年前からストーリーテリングが流行っている。ハーバードビジネスレビューなどでもストーリーテリングについてときどき論文が掲載されている。そうした中で、ストーリーテリングは、以下の7つのシチュエーションに効果的であると言われている。

  1. 自分を理解してもらう
  2. 価値観を伝える
  3. 変革のための行動を引き出す
  4. 未来に導く
  5. 共同作業を促す
  6. ナレッジマネジメント(知恵を共有する)
  7. うわさを管理する

まず、「自分を理解してもらう」ということだが、これは、自己紹介に活用すると有効である。私達は、いろいろな場面で自己紹介のチャンスがあるが、自己紹介されて印象に残る人と残らない人がいる。その違いは何かと考えてみると、印象に残るエピソードがあったがなかったかであることが多い。

例えば、私の場合、「日産自動車で情報システムと海外企画を担当し、コンサルタントになろうと当時の三和総研に入って10年経営コンサルタントをやりました。得意分野は、経営戦略や中期経営計画です。」と自己紹介しても、聞いた人はあまり印象に残らないだろう。

それに対して次のような自己紹介はどうだろう。

「私は、メーカーが好きで、最初日産に就職して、海外部門の中期経営計画を担当していました。当時の部長から海外部門全体の中期経営計画案をまとめてくれ、といわれたので、まずたたき台をということで1週間程度でまとめて持っていくと、『うん、これでいいよ』といわれて、それがその後、そのまま何の議論も修正も加えられず会社の海外部門の中期経営計画になってしまいました。こんなんでいいのかなと思っていると、その後しばらくして、みなさんご存知の結果になってしまいました。社内できちんと議論することができていなかったのですね。さて、私はゴーンさんが来るだいぶ前に辞めていますが、コンサルタントになったきっかけは、日産がマッキンゼーに北米の製品・市場戦略プロジェクトを頼んだ際、プロジェクトメンバーになった経験がきっかけです。ロサンゼルスで、4ヶ月ほど現地スタッフといっしょにプロジェクトをやりました。ホテルに泊まってずっと英語づくしだったのですが、当時のマッキンゼーの米人のプロジェクトリーダーに進め方や内容でいろいろ噛み付いたりしていました。やっているとコンサルタントって自分にもできそうに思ったのと、いろいろな会社の仕事がやれて面白そうだったので、なることにしました。でも、日本のマッキンゼーに行くと、『クライアントからは採れない』と言われて、当時、大企業向けのコンサル部隊を立ち上げ中の三和総研に入ったのです。三和総研に入ってからは、日産時代の中期経営計画立案スキルを活かし、いろいろな中期経営計画立案プロジェクトをやりました。いいかげんたくさんやったので、卒業論文のつもりで、実務家向けに『中期経営計画の立て方・使い方』を書いて出したら、好評を博しベストセラーとなりました。今でも企業の経営企画の方にお会いすると、『この本読みました』とか『前の中計で使わせてもらいました』などのお話を頂きます。」

事例が私事で恐縮だが、最初の簡単なプロフィール紹介に比べ、だいぶビビッドに伝わるのではないだろうか。こういうふうに自己紹介ができると、初めての方でも私のことをだいぶご理解頂けるようで、その後の話がしやすくなる。

自己紹介にストーリーテリングを活用するポイントは、自分が想いを込めてやってきたことや、うまく行ったエピソードを事実に即してリアルに紹介することである。その際、留意したいポイントが3つある。一つは、場面設定をきちんと行なうことである。いつ、どこで、どのような状況なのかを的確に表現することである。私の事例の場合でいうと、日産時代に海外部門で中期経営計画案の立案を指示された場面やマッキンゼープロジェクトメンバーに指名された場面などである。二つ目は、主人公である自分の心の動きや感情、想い、行動を表現することである。事例で言うと、「こんなんでいいのかな」とか、「これなら自分でもできそうだ」などである。三つ目は、その結果どうなったかという話の結末である。事例でいうと、たまたま書いた本がそのカテゴリーでベストセラーになったこと、である。これらの3つの要素を揃えて順序だてて話すとストーリーテリングを使った自己紹介が効果的に行なえる。

このコラムは、雑誌「ビズテリア経営企画」に連載した「ストーリーテリングで人を動かす」10回シリーズを再掲しています。