20年近くにわたってコンサルティングの世界に身を置いてきたが、長年、顧客に我々の提案を実行してもらうにはどうしたらいいのか、と悩み続けてきた。そして、その結果たどり着いたのがストーリーテリングである。ストーリーテリングを使うと相手の反応が変わる。相手が行動を起こすことが分かってきた。実は、こういうことが大切なのだということを、今回から数回にわたり、ストーリーテリングのエッセンスを交えて語ってみたい。

さて、まず、世界の宗教の中で一番人口が多い宗教は何だろうか?ふとそんな疑問を持って、インターネットを調べてみると、一番多いのが、がキリスト教で20億人超である。ざっと世界の人口の約1/3がキリスト教徒である。続いて多いのが、イスラム教で10億人強。3位がヒンズー教で10億人弱。イスラム教がアラブ世界から支持され、インドの人口の大半がヒンズー教であることを考えると、キリスト教信者の人口の民族的広がり、地域的な広がりに驚かされる。キリスト教がもともとユダヤ教から出た宗教で、ユダヤ教徒が現在でも2千万人に満たないことを考えるとキリスト教の伝播力の強さに感嘆する。ざっと2千年で100倍である。キリスト教が広まったのには、教義の普遍性もあると思うが、私は、実はそのストーリー性にあるのではないかと思っている。

イエスがユダヤ人として、処女マリアから生まれ、成人してから、数々の奇蹟を起こしながら反ユダヤ教的考えを布教したため、十字架の刑にかけられたが、死後復活を遂げた、というストーリーは、キリスト教徒ではない私でも知っている。一方、イスラム教の話やヒンズー教の話は殆ど知らないし、実家は浄土宗であるが、お釈迦様や宗祖法然の話もよく知らない。不勉強だといわれればそれまでだが、あまりそれらの宗教にまつわる話に触れる機会がなかったからではないかと思う。キリスト教の伝播力の強さの根源には、イエスの物語の分かりやすさ、それをまた人々が語りついで来たからではないかと思うのである。

話変わって、日本のアニメ。古くは鉄腕アトムが、マイティボーイとして海外でもよく知られていた。比較的最近では、ポケットモンスターが米国で流行った話は有名だ。ドラゴンクエスト等もヨーロッパで人気とのこと。また、最近、マッハゴーゴーゴーがハリウッドで実写版で復活した。私たちが子供の頃は、マンガばかり見ているとバカになると、親から叱られた。しかし、「巨人の星」や「明日のジョー」などは見ずにいられなかった。そうしたアニメが、海外では日本を代表する文化になっている。アニメもストーリーの一種である。

アニメは、単に海外に普及したばかりではない。その後の日本の科学技術の発展にも貢献している。日本は、ヒト型ロボットの研究では世界一である。ホンダのアシモが出たときにはみな驚かされた。トヨタもロボットの研究に本腰を入れ始めた。そうしたロボット研究者の原動力になっているのは、手塚治虫作の鉄腕アトムである。日本のロボット研究者は、みな「鉄腕アトムのようなロボットを作りたい」と思って研究してきた。子供の頃親に白眼視されていたアニメが、現代の日本の科学技術の意欲を支えている。

ストーリーといえるものは、古今東西いたるところにある。神話、文学、演劇、歌、映画、TVドラマ数え上げればきりがない。しかも、日本人がストーリーを創出する力は世界的に見ても優れている。源氏物語は世界最古の長編小説だし、江戸期には近松門左衛門等の優れた作家を輩出している。また、最近では、世界に類を見ないほどたくさんのマンガが毎週毎週出版されている。

こうしたストーリーの力、日本人が得意なストーリー力をもっとビジネスの世界に活かせないものか。いや、きっとあるのではないか。第2回から、このストーリーの力をどのようにビジネスに活かして行ったらよいかをみていきたい。

このコラムは、雑誌「ビズテリア経営企画」に連載した「ストーリーテリングで人を動かす」10回シリーズを再掲しています。